【ハーレー空冷スポーツスターエンジンを振り返る/第3回】何故、水冷エンジンだと排ガス規制に対応できて、空冷だと出来ないのか?(その3/3) - プロトツーリング部
  • 2021.09.21

【ハーレー空冷スポーツスターエンジンを振り返る/第3回】何故、水冷エンジンだと排ガス規制に対応できて、空冷だと出来ないのか?(その3/3)

EURO4とかEURO5といった単語を見聞きすることもあるかと思いますが、排ガスや騒音の規制のことでして、EURO3以降の排ガス規制では、車両を計測室のダイナモ上に設置し、実走行を模擬した車速(加速・減速を含む)と負荷状態、指定されたギヤセレクトで後輪を回転させて排ガスを計測しています(モードエミッション計測)。

市街地走行を模擬したモード

郊外走行モード

高速走行モード

(出展:国土交通省)

このモードエミッション計測のなかで最も厄介なのが、”Cold Start”。エンジンが冷え切った状態からのエンジンスタート(上のグラフの左側、車両速度が0の領域)を模擬した計測条件です。燃焼室壁温は冷えきっていて完全燃焼とは程遠い状態で、また、三元触媒(キャタライザ)もある程度温度が上がるまでは浄化性能も期待できない”魔の時間帯”です。モードエミッション計測全体で排出されるエミッションの大半がこの”Cold Start”から僅か数十秒の間に排出されます。

4輪車の例ですが、コールドスタート時の排ガス濃度を暖機後再始動時と比較すると...

ぜんぜん違うんです。コールドスタート=”魔”ですね。

(出展:東京都環境科学研究所)

この″魔の時間帯”を速やかに通過し、いち早く燃焼室壁面と三元触媒を狙った温度まで”暖機”させるために、この時間帯に限って言えば、”冷却しないほうが良い”という事になります(早期暖機)。空冷エンジンの場合、冷却は走行風まかせとなりますが、水冷エンジンでは冷却回路にサーモスタットを備え、冷却水温度が狙った温度に達するまではラジエターへの水流を遮断し、バイパス通路を循環させることで意図的に冷却能力を落とし、燃焼室壁面とキャタライザの暖機を促進しています。(冷却水の温度が上げるとサーモスタットはラジエターへの通路を開放し、所定の冷却能力を発揮します。

 

空冷エンジンの冷却性UPのためにオイルクーラーを設置する場合がありますが、そのままだと高負荷耐性と引き換えに暖機時間は延び、Cold Start時の排ガス特性は悪化するということになります。狙った温度まで速やかに暖機したいし、出力を上げてもオーバーヒートさせたくないし...オイルクーラーにも忘れずにサーモスタットつけるようにしましょう。

第1回~第3回で解説いたしましたように、”排ガス規制対応”という意味では、燃焼室壁面や三元触媒の温度コントロール性に様々なアドバンテージを持つ水冷方式に優位性があると言えます。暖機が完了してしまえば、”実は空冷も水冷もそこまでの差は無い”のですが...いずれにしても暖機が完了するまでは急激な加減速や高速走行は避けたいものですね。

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